試みにここに若干の駄句《だく》を連ねてみる。
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草を吹く風の果てなり雲の峰
娘十八|向日葵《ひまわり》の宿
死んで行く人の片頬《かたほ》に残る笑《えみ》
秋の実りは豊かなりけり
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こんな連続《コンチニュイティ》をもってこの一巻の「歌仙式《かせんしき》フィルム」は始まるのである。それからたとえば
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踊りつつ月の坂道ややふけて
はたと断えたる露の玉の緒
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とでもいったような場面などがいろいろあって、そうして終わりには
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葬礼のほこりにむせて萩尾花《はぎおばな》
母なる土に帰る秋雨
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これらの映画を見たあとで国産の「マダムと女房」を見た。これは新式のトーキーだという話である。どれだけのところに独創的な機構の長所があるのか知ることはできないが、ともかくもトーキー器械としての役目をある程度までは果たしているようである。そうしてまず、始めから終わりまで見た後の自分の印象からいうと、それほどいやで見ていられないような場面や、退屈で腹の立つよう
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