映画製作者の模範とするに足るものは至るところに見いださるるであろう。しかし現代の日本人から忘れられ誤解されている連句は本家の日本ではだれも顧みる人がない。そうして遠いロシアの新映画の先頭に立つ豪傑の慧眼《けいがん》によって掘り出され利用されて行くのを指をくわえて茫然《ぼうぜん》としていなければならないのである。しかも、ロシア人にほんとうに日本の俳諧《はいかい》が了解されようとは考えにくいのに、それだのにそのロシア人の目を一度通ったものでなければ、今の日本人は受け付けないのである。浮世絵の相場が西洋人の顧客によって制定されると一般である。また日本人の独創的な科学的研究でも、西洋人が一度きわめをつけないと、学位さえもらえないことがあるのとも一般である。
 モンタージュはすなわちモンテーであり、マウンティングであり、日本語では取り付け、取り合わせ、付け合わせ、あしらいである。花を生けるのもこれである。試みに西川一草亭《にしかわいっそうてい》一門の生けた花を見れば、いかに草と木と、花と花と、花と花器とのモンタージュの洗練されうるかを知ることができる。文人風や遠州《えんしゅう》好《ごの》みの床飾
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