い》連句《れんく》の研究によっても得られる。連句における天然と人事との複雑に入り乱れたシーンからシーンへの推移の間に、われわれはそれらのシーンの底に流れるある力強い運動を感じる。たとえば「猿蓑《さるみの》」の一巻をとって読んでみても

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鳶《とび》の羽も刷《かいつくろ》いぬはつしぐれ
 一ふき風の木の葉しずまる
股引《ももひき》の朝からぬるる川こえて
 たぬきをおどす篠張《しのはり》の弓
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のような各場面から始まって

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うき人を枳殻籬《きこくがき》よりくぐらせん
 今や別れの刀さし出す
せわしげに櫛《くし》で頭《かしら》をかきちらし
 おもい切ったる死にぐるい見よ
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の次に去来《きょらい》の傑作

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青天に有明月《ありあけづき》の朝ぼらけ
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が来る。ここに来ると自分はどういうものかきっと、ドストエフスキーの「イディオット」の死刑場へ引かれる途上の光景を思い出すのである。これらのシーンの推移のテンポは緩急自在で、実に目にも止まらぬような機微なも
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