映画時代
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)高知《こうち》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一度|浅草《あさくさ》で

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)おはこ[#「おはこ」に傍点]
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 幼少のころ、高知《こうち》の城下から東に五六里離れた親類の何かの饗宴《きょうえん》[#「饗宴」は底本では「餐宴」]に招かれ、泊まりがけの訪問に出かけたことが幾度かある。饗宴の興を添えるために来客のだれかれがいろいろの芸尽くしをやった中に、最もわれわれ子供らの興味を引いたものは、ある大工さんのおはこ[#「おはこ」に傍点]の影絵の踊りであった。それは、わずかに数本の箸《はし》と手ぬぐいとだけで作った屈伸自在な人形に杯の笠《かさ》を着せたものの影法師を障子の平面に踊らせるだけのものであった。そのころの田舎《いなか》の饗宴の照明と言えば、大きなろうそくを燃やした昔ながらの燭台《しょくだい》であった。しかしあのろうそくの炎の不定なゆらぎはあらゆるものの陰影に生きた脈動を与えるので、このグロテスクな影人形の舞踊にはいっそ
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