映画の世界像
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)世界像《ウェルトビルド》を構成する

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)日月|星辰《せいしん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ](昭和七年二月、思想)
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 映画のスクリーンの平面の上に写し出される光と影の世界は現実のわれらの世界とは非常にかけはなれた特異なものであって両者の間の肖似はむしろきわめてわずかなものである。それにもかかわらずわれわれは習慣によって養われた驚くべき想像力の活動によって、このわずかな肖似の点を土台にして、かなりまで実在の世界に近い映画の世界を築き上げる。そうして、いつのまにか映画と実際との二つの世界の間を遠く隔てる本質的な差違を忘れてしまっているのである。あらゆる映画の驚異はここに根ざしこの虚につけ込むものである。従って未来の映画のあらゆる可能性もまたこの根本的な差違の分析によって検討されるであろうと思う。
 それにはまず物理的力学的な世界像《ウェルトビルド》を構成する要素が映画の上にいかなる形で代表されて
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