渦環《うずわ》や音波の影の推移をゆるゆると見物することもできる。眠っているように思っている植物が怪獣のごとくあばれ回ったり、世界的|拳闘選手《けんとうせんしゅ》が芋虫のように蠢動《しゅんどう》するのを見ることもできるのである。
 時間の尺度の変更は、同時に、時間を含むあらゆる量の変更を招致することはもちろんである。まず第一に速度であるがこれは時間に逆比例する。運動量《モーメンタム》も同様である。しかし加速度となると時間の自乗に逆比例するから時間のほうが二倍に延びれば加速度は四分の一になる。それで、たとえば煙突の崩壊する光景の映画を半分の速度で映写すると、それは地球の四分の一の質量を有する遊星の上での出来事であるかのように見えるのである。同様なわけで器械の工率のディメンションは時間のマイナス三乗を含むから、映写機のハンドルを二倍の速さで回せば、一馬力の器械が八馬力を出して見えるのである。もっともこれは映像の質量と距離とをほぼ正当に評価し想定するためにそうなるのであって、もしも前述の崩壊する煙突が、実物でなくて小さな雛形《ひながた》であると信ずることができるとすれば現象は不自然さを失ってし
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