減すれば、そこからもまたいろいろな技巧が生まれるであろう。たとえばシーンの中の一人物が幽霊のように見えたり消えかかったりするようなことも、重写によらずしてできるであろうと想像される。
 間欠的でなくてほんとうに連続的な映画は不可能であろうか。少なくもわれわれはまだその不可能を証明することはできない。これができるようになったら、記録の器械としての映画の価値は一段高くなるであろう。

 以上は映画の世界像における力学的各要素を筋書的に略記したに過ぎない。他日機会があったら、もう少し詳しくこれらのおのおのについて検討を試み、さらにその結果に基づいて映画の未来の可能性について具体的な考察を遂行したいと思っている。
 なお、このほかに、写真レンズの影像の特異性や、フィルムの感光能力の特異性から来るいろいろの問題がある。さらに発声映画に関して新たに起こって来た多様の興味ある問題もあるであろうが、これらもいっさい省略してここには触れないことにした。
 もし、この一編の覚え書きのような未定稿が、映画の製作者と観賞者になんらかの有用な暗示を提供することができれば大幸である。
[#地から3字上げ](昭和七
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