ひから池までの熊笹を切開いた路はぐしよ/\に水浸しになつて歩きにくかつた。学校の先生らしい一行があとから自分等を追越して行つた。
明神池は自分には別に珍らしい印象を与へなかつた。何となく人工的な感じのする点がこの池を有名にしてゐるかと思はれた。併し、紅葉の季節に見直すといゝかも知れない。同じ道を引返して帝国ホテルで昼飯を食つてから、今度は田代池といふのを見に行つた。赤※[#「金+肅」、第3水準1−93−39]の浮いた水には妙に無気味な感覚があつて、何処かの草むらから錦の色をした蛇でも這出しさうな気がした。かうしたじめ/\した池沼のほとりの雰囲気はいつも自分の頭の何処かに幼ない頃から巣くつてゐる色々な御伽噺中の妖精を思出すやうである。
大正池の畔に出て草臥れを休めてゐると池の中から絶えずガラ/\/\何かの機械の歯車の轢音らしいものが聞こえて来る。見ると池の真中に土手のやうなものが突出してゐて、その端の小屋のやうなものの中で何かしら機械が運転してゐるらしい。宿へ帰つて聞いて見ると、県から水電会社への課税のやうな意味で大正池の泥浚へをやらせてゐるのだといふ。ほんの申訳にやつてゐるのだとい
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