にこれに化かされて蛾の生命が脅かされるようになった。人間が脆弱《ぜいじゃく》な垣根などを作ったために烏瓜の安定も保証されなくなってしまった。図に乗った人間は網や鉄砲やあらゆる機械を工夫しては鳥獣魚虫の種を絶やそうとしている。因果はめぐって人間は人間を殺そうとするのである。
戦争でなくても、汽車、自動車、飛行機はみんな殺人機械である。
この頃も毎日のように飛行機が墜落する。不思議なことには外国から遠来の飛行機が霞ヶ浦へ着くという日にはきまって日本のどこかで飛行機が墜落することになっているような気がする。遠来の客へのコンプリメントででもあるかのように。
蜻蛉《とんぼ》や鴉《からす》が飛行中に機関の故障を起して墜落するという話は聞かない。飛行機は故障を起しやすいように出来ているから、それで故障を起すし、鳥や虫は決して故障の起らぬように出来ているから故障が起らなくても何も不思議はない訳である。むしろ、一番不思議なことは落ちるときに上の方へ落ちないで必ず下に落ちることである。物理学者に聞けば、それは地球の引力によるという。もっと詳しく聞くと、すぐに数式を持ち出して説明する。そんならその引力
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