あらゆる動物の習性を研究するのが急務ではないかという気がして来る。
光の加減で烏瓜の花が一度に開くように、赤外光線でも送ると一度に爆薬が破裂するような仕掛も考えられる。鳳仙花《ほうせんか》の実が一定時間の後に独りではじける。あれと似たような武器も考えられるのである。しかし真似したくてもこれら植物の機巧はなかなか六かしくてよく分らない。人間の智慧はこんな些細《ささい》な植物にも及ばないのである。植物が見ても人間ほど愚鈍なものはないと思われるであろう。
秋になると上野に絵の展覧会が始まる。日本画の部にはいつでも、きまって、色々の植物を主題にした大作が多数に出陳される。ところが描かれている植物の種類が大抵きまり切っていて、誰も描かない植物は決して誰も描かない。例えば烏瓜の花の絵などついぞ見た覚えがない。この間の晩、床に這入ってから、試みに宅の敷地内にある、花の咲く植物の数を数えてみた。二、三十もあるかと思って数えてみたら、実際は九十余種あった。しかし帝展の絵に現われる花の種類は、まだ数えてみないが、おそらくずっと少なそうである。
数の少ないのはいいとしても、花らしい花の絵の少ないのにも
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