も思われるが、実際はどうだか、ちょっと試験してみたいような気がするのである。
 子供の時分に蜻蛉《とんぼ》を捕るのに、細い糸の両端に豌豆《えんどう》大の小石を結び、それをひょいと空中へ投げ上げると、蜻蛉はその小石を多分|餌《えさ》だと思って追っかけて来る。すると糸がうまい工合に虫のからだに巻き付いて、そうして石の重みで落下して来る。あれも参考になりそうである。つまりピアノ線の両端に重錘《おもり》をつけたようなものを矢鱈《やたら》と空中に打ち上げれば襲撃飛行機隊は多少の迷惑を感じそうな気がする。少なくも爆弾よりも安価でしかも却って有効かもしれない。
 戦争のないうちは吾々は文明人であるが、戦争が始まるとたちまちにして吾々は野蛮人になり、獣になり鳥になり魚になり、また昆虫になるのである。機械文明が発達するほど一層そうなるから妙である。それで吾々はこれらの動物を師匠にする必要が起って来るのである。潜航艇のペリスコープは比良目《ひらめ》の眼玉の真似である。海翻車《ひとで》の歩行は何となくタンクを想い出させる。ガスマスクを付けた人間の顔は穀象《こくぞう》か何かに似ている。今後の戦争科学者はありと
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