いうことがある。もちろん、その上に、尾の上の背骨に針を打ち込んだりするそうであるが、このようにものをかぶせる事が「針よりも大切なまじない」だと考えられている。またこれと共通な点のあるのは、平生のギバよけのまじないとして、馬に腹当てをさせるとよい、ただしそれは「大津東町上下仕合」と白く染めぬいたものを用いる。「このアブヨケをした馬がギバにかけられてたおれたのを見た事がないと、言われている」。
 別の説として美濃《みの》では「ギバは白虻《しろあぶ》のような、目にも見えない虫だという説がある、また常陸《ひたち》ではその虫を大津虫と呼んでいる。虫は玉虫色をしていて足長蜂《あしながばち》に似ている」という記事もある。
 以上の現象の記述には、なんらか事実に基づいたものがあるという前提を置いて、さて何かこれに類似した自然現象はないかと考えてみると、まず第一に旋風が考えられる。もし旋風のためとすればそれは馬が急激な気圧降下のために窒息でもするか内臓の障害でも起こすのであろうかと推測される。しかしそれだけであってこのギバの他の属性に関する記述とはなんら著しい照応を見ない。もっとも旋風は多くの場合に雷雨
前へ 次へ
全15ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング