であったそうな。ここまで一人でしゃべってしまってもっともらしい顔をして煙を輪に吹く。ポンポン桶をたたきながら黙って聞いていた桶屋《おけや》はこの時ちょっと自分のほうを見て変な目つきをしたが、「そしてその麝香《じゃこう》というのはその木の事かい、それともまた毛虫かい」と聞く、「ウーン、そりゃあその、麝香にもまたいろいろ種類があるそうでのう」と、どちらともわからぬ事をいう。桶屋はしいて聞こうともせぬ。桶をたたく音は向こうの丘に反響して楝《おうち》の花がほろほろこぼれる。
[#地から3字上げ](明治四十一年十月、ホトトギス)
底本:「寺田寅彦随筆集 第一巻」小宮豊隆編、岩波文庫、岩波書店
1947(昭和22)年2月5日第1刷発行
1963(昭和38)年10月16日第28刷改版発行
1997(平成9)年12月15日第81刷発行
※「「芭蕉は花が咲くと」は、底本では「芭蕉は花が咲くと」ですが、親本を参照して直しました。
入力:田辺浩昭
校正:田中敬三
1999年11月17日公開
2003年10月22日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青
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