究がとにかくも可能になる訳である。
 こういう事を完全に仕遂げる事はなかなか容易な事ではないが、そういう方向への第一歩として、私は試みに次のような事を考えてみた。
 先ず従来の例にならって母音をイエアオウの順に並べる。そしてイからウに至る間に唇は順に前方に突き出て行くものとする。また唇の開きはイからアまで増し、アからウへ向ってまた減ずると仮定する。
 今唇の前後の方向の位置をXで表わし、唇の開きをYで表わすとるると、イエアオウと順に発音する場合にXYで表わされる直角坐標図の上の曲線はざっと半円形のようなものになる。次にXYの面に垂直なZ軸の方向に時間を取る。そうすると色々の母音を順々に発音する状況は一つの空間曲線として表わされる。その曲線は前に云った半円形を基とした半円筒の面の上をあちこち動きながらZの方向に延びて行くのである。
 実際にこういう空間曲線を作る事は厄介であるから、その代りにこの曲線をXZ面とYZ面に投射したものと二つを画いて調べる外はないのである。
 こんなような考えから、私はいつぞや先ずこのXZ面の射影、すなわち唇の出方のいろいろと変る方だけを二、三十首の歌について画
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