歌の口調
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)抽《ぬ》き出す

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](大正十一年三月『朝の光』)
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 歌の口調がいいとか悪いとかいう事の標準が普遍的に定め得られるものかどうか、これは六かしい問題である。この標準は時により人により随分まちまちであってその中から何等かの方則といったようなものを抽《ぬ》き出すのは容易な事とは思われない。
 しかし個人的には、たとえそれは自覚されないにしても、何かしら自ずから一定の標準をもっていて、それに当嵌《あては》めて口調の善し悪しを区別している事だけは否定し難い事実である。
 それでもし各個人の標準を分析的に研究して、何等かの形でその要素といったようなものを抽出する事が出来れば、次には色々の個人の要素を綜合して、帰納的にやや普遍な方則を求める事が出来そうにも思われる。
 口調というものの最も主要な要素の一つは時間的のリズムであるが、和歌や俳句のようなものでは、これは形式上の約束から既にある範囲内に規定されている。勿論その範囲内でも、例え
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