ら、このために科学が各方面に進歩する事は疑いを容れない。これは誠に喜ぶべき事である。しかしその半面の随伴現象としていわゆる骨董趣味を邪道視し極端に排斥し、ついには巧利を度外視した純知識慾に基づく科学的研究を軽んずるような事があってはならぬと思う。直接の応用は眼前の知識の範囲を出づる事は出来ない。従ってこれには一定の限界がある。予想外の応用が意外な閑人的学究の骨董的探求から産出する事は珍しくない。自分は繰返して云いたい。新しい事はやがて古い事である。古い事はやがて新しい事である。
温故知新という事は科学上にも意義ある言葉である。また現代世界の科学界に対する一服の緩和剤としてこれを薦《すす》めるのもあながち無用の業ではないのである。[#地から1字上げ](大正八年一月『理学界』)
底本:「寺田寅彦全集 第五巻」岩波書店
1997(平成9)年4月4日発行
入力:Nana ohbe
校正:浅原庸子
2005年3月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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