うして分からない大部分への憧憬と知識慾をそそるのであった。それよりも、先生方や先輩達の、本当に学問に余念のない愉快な態度が嬉しかった。今はもう皆故人となった佐野さん須藤さん大谷さんなどの諸先輩の快活で朗かな論争もその当時のコロキウムの花であった。アインシュタインの相対性原理の最初の論文を当時講師であった桑木さんが紹介され、それが種となって議論の花を咲かせたのもその頃の事であったのである。当時の輪講会は人数が少なくてそれだけに却《かえ》って極めてインチームなものであり、至って「尤もらしく」ない「勿体臭く」ないものであった。
学生の数も少なかったから図書室などもほとんど我物顔に出入りして手当り次第にあらゆる書物を引っぱり出してはあてもなく好奇心を満足しそうなものを物色した。古い『フィル・マグ』〔Philosophical Magazine〕の中から「首釣の力学」や「人玉について」などという論文を発見してひどく嬉しがったりしたのもその頃であった。レーノルズの全集をひやかしてこの異彩ある学者を礼讃してみたり、マクスウェルの伝記中にあるこの物理学者の戯作ヴァンパヤーの詩や、それを飾る愉快に稚拙
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