によって、千差万別ありとあらゆる作品が可能であって、そうして、そのいずれもが傑作でもありうるのである。しかも物理学の場合などとは到底比較にならない多種多様の変化を示しうることはもちろんである。
 物理学で用いられる数学の中でも最も重要なものはいわゆる微分方程式である。これは物理学的ないろいろな量の相互の関係を決定する数式であるが、それがそれらの量自身の間の関係を示すだけでなく、一つの量が少し変わったときに他の量がそれにつれて少し変わる、その変化の比率を示すところのいわゆる微分係数によって書き現わされた関係式である。こういう微分方程式の一つの著しい特徴は、その式だけでは具体的の問題は一つも決定されない。すなわち一つの式が無限に多種多様な一群の問題のすべてを包括しており、また同時にそれらのおのおのをも代表しているのである。それで、もし、この式のほかに、場合によっていろいろ数はちがうが、とにかく数個の境界条件(boundary conditions)ならびに当初条件(initial conditions)を表示する数式を与えると、そこで始めて一つの具体的な問題が設立され、設立されると同時に少
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