家庭の人へ
寺田寅彦

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)呼鈴《よびりん》や、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和六年六月『家庭』)
−−

      風呂の寒暖計

 今からもう二十余年も昔の話であるが、ドイツに留学していたとき、あちらの婦人の日常生活に関係した理化学的知識が一般に日本の婦人よりも進んでいるということに気のついた事がしばしばあった。例えば下宿のおかみさんなどが、呼鈴《よびりん》や、その電池などの故障があったとき少しの故障なら、たいてい自分で直すのであった。当時はもちろん現在の日本でも、そういう下宿のお神さんはたぶん比較的に少ないであろうと思われる。室内電燈のスウィッチの、ちょっと開けてみれば分るような簡単な故障でも、たいてい電燈会社へ電話をかけて来てもらうのが普通であるらしい。
 些細なようなことで感心したのは、風呂を立ててもらうのに例えば四十一度にしてくれと頼めばちゃんと四十一度にしてくれる。四十二度にと云えば、そんなに熱くてもいいのかと驚きはするが、ちゃんと四十二度プラスマイナス〇
次へ
全10ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング