夏目漱石先生の追憶
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)熊本《くまもと》第五高等学校
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)この二|室《へや》が
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ](昭和七年十二月、俳句講座)
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)グウ/\/\
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熊本《くまもと》第五高等学校在学中第二学年の学年試験の終わったころの事である。同県学生のうちで試験を「しくじったらしい」二三人のためにそれぞれの受け持ちの先生がたの私宅を歴訪していわゆる「点をもらう」ための運動委員が選ばれた時に、自分も幸か不幸かその一員にされてしまった。その時に夏目先生の英語をしくじったというのが自分の親類つづきの男で、それが家が貧しくて人から学資の支給を受けていたので、もしや落第するとそれきりその支給を断たれる恐れがあったのである。
初めて尋ねた先生の家は白川《しらかわ》の河畔で、藤崎神社《ふじさきじんじゃ》の近くの閑静な町であった。「点をもらいに」来る生徒には断
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