す。これはどういうわけかというと、砂粒が自然のままに落ち着いている時は、粒の間の空隙《くうげき》がなるたけ少ないようになっているが、足で踏んだりすると、その周囲の所は少し無理がいって空隙が多くなり、近辺の水を吸い込むからです。試みにこのような、充分水を含んだ細砂を両手で急に強く握りしめると、湿気が失《う》せて固くなるが、握ったままでいるとだんだん柔らかくなってダラダラ流れ出します。足で踏んでも、踏んだ時は固いが、だんだん足がめり込んで行きます。よほどおもしろいものだから、忘れずにためしてごらんなさい。
 浜べには通例大きい砂も細かい砂もあるが、たいてい大きいのは大きいの、細かいのは細かいのと類をもって集まっているのは、考えてみると不思議ではないでしょうか。波が砂をかきまぜているのに、どうして一様に交じらないでしょうか。よく考えてみると、これはやはり波が砂を選《よ》り分ける役をしているのです。水の底では波のために砂が絶えずおだてられているが、これが落ちる時は大きい粒のほうがいつでも早く落ちるから、長い間には大きいのはだんだん底になり、細かいのが上に残る事になる。このようにしてできた砂の層
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