三十|尋《ひろ》の底でもひどく揺れるが、少しの波ならば、潜航艇にでも乗って、それくらい沈めば、もう動揺は感じなくなります。
 波が浜へ打ち上げてから次の波が来るまでの時間は時によっていろいろですが、私が相州《そうしゅう》の海岸で計ったのでは、波の弱い時で四五秒ぐらい、大波の時で十四五秒ぐらいでした。とにかく、波の高い時ほどこの時間が長くなります。
 遠浅の浜べで潮の引いた時、砂の上にきれいなさざ波のような模様が現われる事があります。これは細かい砂の上で、水があちらこちらと往復運動をするためにできるものです。何か浅い箱か盥《たらい》のようなものがあったら、その底へ細かい砂を少し入れ、その上に水を入れて静かにゆさぶってみるとおおよそこのような模様のでき方を実験する事ができます。また機会があったら水の底にできているこの波形の波長を計ってごらんなさい。通例、深い所ほど波長が短くなっているでしょう。
 波頭《なみがしら》が砂浜をはい上がって引いたすぐあとの湿った細砂の表面を足で踏むと、その周囲二三尺ほどの所が急にすう[#「すう」に傍点]とかわくが、そのまま立ち止まっていると、すぐにまた湿って来ま
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