に起こった波のうねり[#「うねり」に傍点]が、ここらの海岸まで寄せて来て、暴風雨の先ぶれをする事もあります。このような波の進んで行く速さは、波の峰から峰、あるいは谷から谷までの長さいわゆる「波の長さ」の長いほど早く、また浅い所へ来るとおそくなります。見慣れない人は波の進むにつれて水全体が押し寄せて来るように思う事もあるそうですが、実際はただあのような、波の形が進んで来るだけで、水はただ、前後に少しずつ動揺しているという事は水面に浮かんでいる物を見ていてもだいたいはわかります。もし浅い所で、波の中に立っていられるような機会があったらよく気をつけてごらんなさい。波の峰が来た時にはからだが持ち上げられると同時に、波の進むほうに押されるが、谷を通る時は反対に引きもどされます。もう少し詳しく水に浮かんでいる木切れか何かの運動を注意していると、波が一つ通るごとに、楕円形《だえんけい》の輪を描いている事がわかります。これは水の表面に限らず、底のほうでも同様ですが、ただ底へ行くほどこの楕円形が平たくまた小さくなり、いよいよ底の所ではただわずかに直線の上を往復する運動になってしまいます。大波の時には、二
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