が大あらしなどの時にまたはがれて浜へ打ち上げられる時でも、細かいのと大きいのでは水に運ばれるのに遅速があって、いつでも選《よ》り分けられるような傾きがあるでしょう。
海岸では晴れた夏の日の午前にはたいてい風が弱くて、午後になると沖のほうから涼しい風が吹き出します。これは海軟風ととなえるもので、地方によりいろいろな方言があります。陸地の上の空気は海上よりも強くあたたまり、膨張して高い所の空気が持ち上がるから、そこで海のほうへあふれ出すので、それを補うため、下では海面から陸のほうへ空気が流れ込むのがすなわちこの風です。それだから海軟風の吹く前には、空の高い所では逆の風が吹き出すわけです。
海軟風は沖のほうから吹き始め、だんだん陸に近よって来ます。浜べはまだ風がなく蒸し暑くて海面が油を流したようにギラギラして、空を映している時、沖のほうの海面がきわ立って黒くなって来るのがよく見える事があります。これは沖から寄せて来る風のために、海面がさざ波立って空が映らなくなり、そのかわり海水の色が透いて見えるためであります。この黒い所が浜べに近づいて来ると、もうそよそよと涼しい風を感じるようになります
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