で衝突するために皮膚が截断《せつだん》されるのである。旋風内の最高風速はよくはわからないが毎秒七八十メートルを越える事も珍しくはないらしい。弾丸の速度に比べれば問題にならぬが、おもちゃの弓で射た矢よりは速いかもしれない。数年前アメリカの気象学雑誌に出ていた一例によると、麦わらの茎が大旋風に吹きつけられて堅い板戸に突きささって、ちょうど矢の立ったようになったのが写真で示されていた。麦わらが板戸に穿入《せんにゅう》するくらいなら、竹片が人間の肉を破ってもたいして不都合はあるまいと思われる。下賤《げせん》の者にこの災《わざわい》が多いというのは統計の結果でもないから問題にならないが、しかし下賤の者の総数が高貴な者の総数より多いとすれば、それだけでもこの事は当然である。その上にまた下賤《げせん》のものが脚部を露出して歩く機会が多いとすればなおさらの事である。また関東に特別に旋風が多いかどうかはこれも充分な統計的資料がないからわからないが、小規模のいわゆる「塵旋風《ちりせんぷう》」は武蔵野《むさしの》のような平野に多いらしいから、この事も全く無根ではないかもしれない。
 怪異を科学的に説明する事
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