享楽に適するようにしようとすれば、どうしても多少の無理が起こりやすい。それをこのくらいにまでまとめ上げるのはやはり凡手ではできないであろう。それにしてもクレールの「パリの屋根の下」や「自由をわれらに」のようなものに比べると、どうしても少しごたごたした感じのするのはやむを得ない。
しかしこの映画はまたまさにそういう点から見て、未来の音映画の進化の径路を暗示するものと思われる。この映画の傾向を次第に発展させて行けば結局は日本固有の俳諧連句《はいかいれんく》を視覚化したようなものに近づいて行くであろうと思う。私は日本の一流の映画家、音楽家、俳人が力を合わせて、西洋人に先鞭《せんべん》をつけられないうちに、一日も早くオリジナルで芸術的でしかも大衆的におもしろい俳諧連句的映画の創作に着手する事を切望するものである。
[#地から3字上げ](昭和七年十一月、キネマ旬報)
底本:「寺田寅彦随筆集 第三巻」小宮豊隆編、岩波文庫、岩波書店
1948(昭和23)年5月15日第1刷発行
1963(昭和38)年4月16日第20刷改版発行
1997(平成9)年9月5日第64刷発行
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