げる狩人《かりうど》たちのスローモーションは少し薬がきき過ぎた形である。
舞踊会の「アパッシュの歌」とその画面は自分にはあまりおもしろくなかった。何かが一つ足りないような気がする。どこかに無理があるであろう。
仕立て屋だということがわかってからの「ナッシンバッタテーラ」の繰り返しもわりにおもしろくできている。家扶家従、部屋付《へやづ》き女中、料理人、せんたく女と順々にこれが伝わって行って、最後にはいよいよ引き上げて行くモーリスに、執念《しゅうね》く追い迫るスキャンダルの悪魔のささやきのようなささやき声の「ナッシンバッタテーラ」が繰り返される。これはかなり印象的である。これを聞いて帰宅して晩に寝ようとすると、枕《まくら》もとの時計の音が「カッチン、コッチン、カッチン、コッチン、ナッシン・バッタテーラ」というふうに聞こえたくらいである。
最後の汽車と騎馬との追っ駆けは、無音映画としてはあまりに陳套《ちんとう》な趣向であるが、しかしあの機関車の音と画像と、馬のひづめの音と足掻《あが》きの絵との加速度的なフラッシュ・バックにはやはりちょっとすぐにはまねのできない呼吸のうまみがあるようであ
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