たうもよし、盆栽を楽しむ人は盆栽をいじるもいいし、収集家は収集品の整理をやるもいいだろう。
昼も夜も忙しい人は出勤前のわずかな時間までも心せわしさをむさぼるかのように急いで新聞を読む代わりに、さなくばめったに口をきく事のない家族とよもやまの談をかわすもいいだろう。あるいは特にそういう人たちはこの時間を利用して庭にでもおり、高い大空を仰いで白雲でもながめながら無念無想の数分間を過ごす事ができたらその効果は肉体的にも精神的にも意外に大きなものになるかもしれない。私はむしろ大多数の人のために何よりも一番にこのほうをすすめたいような気がする。そういうわずかな事によって人々の仕事の能率が現在よりもいくらかでも高められ、そうして人々の心持ちの平安はいくらかでも増し、行き詰まった心持ちと知恵とはなんらかの新しい転機を見いだしはしないだろうか。
小説や風聞録のようないわゆる閑文字について言われる事は、実は大多数の読者にとって、他の大部分のいわゆる重要記事についても言われるのである。多くの読者が社会記事や政治欄を読む心持ちが小説その他の閑文字を読む心持ちと根本的にどれだけ違うかという事はよくよく考
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