最も立派なモーターロードなのである。
東京附近の自動車道路の詳細な地図はないかと思ってこの間中探したが見付からなかった。鳥瞰図《ちょうかんず》式の粗雑なものはあったが、図がはなはだしく歪められているので正確な距離や方角の見当がつかないし、またどのくらい信用出来るかも不明である。鉄道省で出来た英文のモーターロードマップがあって、これは便利であるが、あまりに簡単でその道路と他の地物との関係が不明であり、また最近のところまでアップ・ツ・デートにはなっていないらしい。やはり便利のようで不便なのが現在の世の中である。
楽々園《らくらくえん》で車を降りて入場しようとすると、向うから来る酔っぱらいの二人連れが何かしら不機嫌でいきなり出入口のターンパイクを引っこ抜いて投げ出して行った。園内の芝生は割合に気持のいいところである。芝生の真中で三、四人弁当をひろげて罎詰《びんづ》めの酒を酌んでいる一団がある。中年の商人風の男の中に交じった一人の若い女の紫色に膨《ふく》れ上がった顔に白粉《おしろい》の斑《まだら》になっているのが秋の日にすさまじく照らし出されていた。一段降りて河畔の運動場へ出ると、男女学生
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