の一と群が小鳥のごとく戯れ遊んでいた。男の方がたいてい大人しくしおらしくて女の方がたいて活溌で度胸がいいのがこうした群に共通な現象のようである。神代以来の現象かもしれない。カメラを持った男のきっと交じっているのは近頃のことである。
帰りに青梅を出て間もなく二度までも巡査に呼止められて検査札を見届けられた。「ナーンダ杉並か、馬鹿に小さな札じゃないか」と云って、検査済の紙札の小さい事の責任をわれわれに負わされるのであった。二度目に「つかまった」ときの巡査は今日出会った三人の中ではいちばん柔和で愛嬌のある人であったが「いったいどこへ行くんだ」「東京です」「東京なら此方《こっち》へ来ちゃダメだぞ。とんでもない処へ行っちまうぜ」と云うので、教えられたままにそこから直角に曲って南へ正しい街道を求めながら人気《ひとけ》の稀な多摩の原野を疾走した。広大な松林の中を一直線に切開いた道路は実に愉快なちょっと日本ばなれのした車路で、これは怪我の功名意外の拾い物であった。
帰路は夕日を背負って走るので武蔵野《むさしの》特有の雑木林の聚落《しゅうらく》がその可能な最も美しい色彩で描き出されていた。到る処に穂
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