気象や地球物理に比べて地理の方は輪講にも講義にも出席者が多く気分がまるで変っていた。気象輪講会は何となく上品にのんびりしていたし、地球物理輪講会は生真面目でしかも家族的な気分であったが、地理の輪講会には何となく物々しい人間臭い気分があった。学者で同時に政治家らしいペンク教授の人柄がやはり反映しているような気もした。いつか、カナダのタール教授が来て氷河に関する話をしたときなど、ペンクは色々とディスクシオンをしながら自分などにはよく分らぬ皮肉らしいことを云って相手を揶揄《やゆ》しながら一座を見渡してにやりとするという風であった。
ペンクの講義は平明でしかも興味あり示唆に富んだ立派な講義であると思われた。聴講者には外国人も多かったが外国人同士はやはり自然に近付きになりやすかった。英国人のオージルヴィ君や、ルーマニアのギリッチ君などとよく教室入口の廊下で立話をした。後者は今ベルグラードの観測所に居るが前者の消息は分らない。ドイツ学生の中にはずいぶん不真面目らしい茶目や怠け者も居て一体に何となく浮世臭い匂がこの教室全体に漂っているのを感じた。自分は幸いにここでも図書室を自由に開放してもらって、
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