スパーク
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)なかなか六《むつ》かしい
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和三年九月『理学部会誌』)
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一
当らずさわらずの事を書こうとするとなかなか六《むつ》かしい。真理は普遍だから、少しでも真理に近いことを書けば、すべての人があてられ、痛い所をさわられる。優れた小説を読むとすべての人が自分をモデルにしたのではないかと思う。己《おれ》がモデルだと自称する人が幾人も出て来たりする。「坊ちゃん」のモデルの多いのは当然としても、自《みずか》ら「赤シャツ」と称するのが出て来たりするから面白い。元来作者は自分自身の中に居る「坊ちゃん」「赤シャツ」「のだ」「狸」「山あらし」を気任せに取出して紙面の舞台で踊らせ歌わせる。見物人の読者はそれを見て各自の中に居る「坊ちゃん」「赤シャツ」エトセトラを共鳴させる。気楽なたちの人はそのうちで自分に都合のいい気持のいいのだけを自由に振動させ、都合のわるいのはそっとダンプしておく。あるいは自分の嫌いな人にそれをプロ
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