限り一通りはそろっている。こういう珍しい千代紙式に多様な模様を染め付けられた国の首都としての東京市街であってみれば、おもちゃ箱やごみ箱を引っくり返したような乱雑さ、ないしはつづれの錦の美しさが至るところに見いだされてもそれは別に不思議なことでもなければ、慨嘆するにも当たらないことであるかもしれない。そしておそらく古い昔から実質的には今と同じ状態がなんべんとなく少しずつちがった形式で繰り返されながら、あらゆる異種の要素がおのずから消化され同化され、無秩序の混乱から統整の固有文化が発育して来ると、たとえだれがどんなに骨を折ってみても、日本全体を赤色にしろ白色にしろただの一色に塗りつぶそうという努力は結局無効に終わるであろうと思われる。それにはまず日本の地質から気候から改造してかからなければおそらくできない相談であろう。日ごろからいだいていたこんな考えが昨今カメラをさげて復興帝都の裏河岸《うらがし》を歩いている間にさらにいくらかでも保証されるような気がするのである。
 西洋を旅行している間に出会う黄色い顔をした人間が日本人であるかシナ人であるかを判断する一つの簡単な目標は写真機をさげているか
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