かに快く聞かれるのであろう。そういう爆音を街頭に放散しているものの随一はカフェやバーの正面の装飾美術であろう。ちょうどいろいろな商品のレッテルを郭大して家の正面へはり付けたという感じである。考えようではなかなか美しいと思われるのもあるがしかしいずれにしても実に瞬間的《エフェメラル》な存在を表象するようなものばかりである。このような珍しい現象の記録をそれが消えない今のうちに収集しておくのは、切手やマッチのレッテルの収集よりは有意義であろうと思っていたが、近刊の板垣鷹穂《いたがきたかお》氏著「芸術的現代の諸相」の中に、このような収集の一部が発表されているのを見てなるほどと思うのであった。これらの特殊なインスチチューションの名前がまた実に興味あるものであって、これも記録しておく価値がある。近ごろ見かけた珍しいものの一つとしてはサンスクリットで孔雀《くじゃく》という意味の言葉を入り口の頭上の色ガラス窓にデワナガリー文字で現わしたのさえあった。ダミアンティやシャクンタラのような妖姫《ようき》がサーヴするかと思わせるのもおもしろい。
こういうものの並んでいる間に散点してまた実に昔のままの日本を代
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