ったに出逢わないような印象と理解を期待する事が出来るだろう。」
「ついでながら近頃やっと試験的に学校で行われ出した教授の手段で、もっと拡張を奨励したいのがある。それは教育用の活動フィルムである。活動写真の勝利の進軍は教育の縄張りにも踏み込んでくる。そしてそこで始めて、多数の公開観覧所が卑猥《ひわい》なものやあくどい際物《きわもの》で堕落し切っているのに対して、道徳的なものをもって対抗させる機会を得るだろう。教授用フィルムに簡単な幻燈でも併用すれば、従来はただ言葉の記載で長たらしくやっている地理学などの教授は、世界漫遊の生きた体験にも似た活気をもって充たされるだろう。そして地図上のただの線でも、そこの実景を眼《ま》の当りに経験すれば、それまでとはまるで違ったものに見えて来る。また特にフィルムの繰り出し方を早めあるいは緩めて見せる事によって色々の知識を授ける事が出来る。例えば植物の生長の模様、動物の心臓の鼓動、昆虫の羽の運動の仕方などがそうである。それよりも一層重要だと思うのは、万人の知っているべきはずの主要な工業経営の状況をフィルムで紹介する事である。動力工場の成り立ち、機関車、新聞紙、
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