かに早く確実に、おまけに面白くこれらの数学的関係を呑み込ませる事が出来る。一体こういう学問の実際の起原はそういう実用問題であったではないか。例えばタレースは始めて金字塔の高さを測るために、塔の影の終点の辺へ小さな棒を一本立てた。それで子供にステッキを持たせて遊戯のような実験をやらせれば、よくよく子供の頭が釘付け《フェルナーゲルト》でない限り、問題はひとりでに解けて行く。塔に攀《よ》じ上らないでその高さを測り得たという事は子供心に嬉しかろう。その喜びの中には相似三角形に関する測量的認識の歓喜が籠っている。」
「物理学の初歩としては、実験的なもの、眼に見えて面白い事の外は授けてはいけない。一回の見事な実験はそれだけでもう頭の蒸餾瓶《レトルト》の中で出来た公式の二十くらいよりはもっと有益な場合が多い。やっと現象の世界に眼のあきかけた若いものの頭に公式などは一切容赦してやらねばいけない。公式は、丁度世界歴史の年代の数字と同様に、彼等の物理学の中に潜む気味の悪い怖ろしい幽霊である。よく訳のわかった巧者な実験家の教師が得られるならば中頃の学級からやり始めていい。そうしてもラテン文法の練習などではめ
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