つとめた。

 ターリングにおける日常生活を紹介する。朝九時家族が集まって祈祷、寝坊して出ないものは睨《にら》まれた。それから朝飯まで書斎で書信の開封。朝飯中は手紙を読むか、さもなくば大抵黙っていたが、子供等には冗談を云ったり一緒に騒いだりした。朝飯後書斎で手紙の返事、十時に助手のゴルドン出勤、その日の仕事の打合せ、午前中は大抵読書か書きもの、Phil .Mag. か Ann. d. Ph. が来ると安楽椅子で約半時間それに目を通してから書棚へ入れる。書卓で実験の結果の計算、数式の計算または論文原稿執筆、途中で時々安楽椅子へ行って参考書を読んだり紙片へ鉛筆で何か書きながら黙想したり、天気のいい日は温室や庭を行ったり来たりして、午前中一、二度実験室をのぞいて何かと指図をする、昼飯前三十分くらい子供や孫に数学の教授、詰込主義でなくて子供等を自然に導くというやり方であった。昼飯時に午後のプランをきめた。例えば夫人と馬車でドライヴする相談、何時にどこへ行くというような事でも必ず先ず相手に意見を出させ、あとから自分の説を出すのが彼の流儀であった。食後新聞を一通り読む。新聞を熟読するのが彼の生涯の
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