使っていたのをガス燈にし、また実験用の吹管《すいかん》や何かに使用するために、新たに自家用のガス発生器を設備した。その他には客間にあったオルガンを書斎に移したくらいで、外には別に造作を加えるようなことはしなかった。晩年に到るまで、彼はこの旧宅に手を入れることは容易に承諾しなかった。そうして彼の幼時の思い出のかかっている家具の一つでも取除けることを許さなかった。
 この年に彼は F. R. S. に選ばれた。そうして一八七四年から一八七九年までは平穏にターリングの邸で暮していた。一八七四年の夏頃始めていわゆる心霊現象(spiritualistic phenomena)の研究に興味をもつようになった。それはクルックス(W.Crookes)がこの方面の研究に熱心であったのに刺戟されたものらしい。彼は、もしこれらの現象が本当であれば、それはあらゆる他の科学的の発見よりも遥かに重要であると考えたのであった。しかし色々の実験に立合ったりした結果は彼を失望させた。もしそうでなかったら、彼はおそらく生涯をこの方面の研究に捧げたかもしれないということである。しかし彼が最後までこの方面の興味を捨て切れなか
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