の傾動を起こし震動を起こすという考えが、最近のマグマ運動と地震の関係に関する学説を連想させる。
 津波の記事の加えられているのは地震国たるギリシア・ローマの学者にして始めてありうるものであろう。
 次には大洋の水量の恒久と関係して蒸発や土壌《どじょう》の滲透性《しんとうせい》が説かれている。
 火山を人体の病気にたとえた後に、物の大きさの相対性に論及し、何物も全和に対しては無に等しいと宣言している。
 また火山の生因として海水が地下に滲透《しんとう》し、それが噴火山の根を養うという現代でもしばしば繰り返される仮説もまたその端緒をルクレチウスに見いだすことができるのである。
 ナイルの洪水《こうずい》の問題についても四箇条のオルターネティヴがあげてある。この四箇条などは、おそらく今でもどこかの川について地文学者のだれかが月並みに繰り返しつつあるものと全然同様である。
 次には毒ガス泉や井戸水の問題がある。井水の温度に関する彼の説明は奇抜である。
 その次に磁石の説が来るのは今の科学書の体裁と比較して見れば唐突の感がある。ただし著者のつもりは、あらゆる「不思議」を解説するにあるのであって、
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