言ったりしている。このへんの所説はしかし私の今の立場から詳説すべき範囲外にあるからすべて省略する事とする。
 これらの所説は畢竟《ひっきょう》するに人間霊魂非不滅論に導くべき前提としてルクレチウスのかなり力こぶを入れているところであるらしく見える。
 以上の所説のごとくにして造られた世界には、同じようなものがたくさん共存するという考えから、われわれのと同じ世界が、他にもいくつも存在するであろうという考えが述べてある。これも一つの卓見であると言われよう。さように限りなき宇宙を一人の力で支配する神様はないはずだというところへ鋒先《ほこさき》を向け、そして例の宗教の否定が繰り返される。
 この条下にこの世界の誕生、生長、老衰、死滅に関することも述べられている。これらを省略して直ちに第三巻に移ろう。

       三

 第三巻の要項とするところは、人間精神の本性を論じこれもまた物質的なる元子より成るものであることを論じ、それから霊魂は死滅するものであるという事を「証明し」最後に死の恐るるに足りない事を結論するのにある。
 これらの所論はルクレチウスの哲学的の立場からすれば最も重要な役目を務
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