考えると、今より百年後の生理学の立場から見てあるいはルクレチウスの言葉を適当に翻訳する事ができるようになりはしないか。不規則に角立《かどだ》った音波は噪音《そうおん》として聞かれ、振動急速な紫外線は目に白内障をひき起こす。その何ゆえであるかは完全には説明されていないではないか。いわんや光の量子説の将来は未知数である。現に光の網膜に対する作用が光電《フォトエリクトリック》現象であるとかないとかいう議論が行なわれつつある。もしそうであるとすれば、その場合の光は結局素量的であって、すなわち光の元子である。その波の量子エネルギーを定める振動数はある意味での量子の「形」とも見られるのではあるまいか。
それはとにかくすべての感覚を、器械的現象に引きならしてしまおうとしているところに、われわれはルクレチウスの近代科学的精神の発現を認めなければならない。
次には、固体元子は曲がりあるいは分岐しているのに対して液体の元子は丸くなめらかであるとしている。これも、一方に結晶体の原子格子《げんしごうし》の一小部分を考え、他方に液体の分子集合の緩舒《かんじょ》な状態を考えれば、ある度まではあたっていると言わ
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