#「Nothing from nothing ever yet was born」の部分はイタリック体]
[#ここで字下げ終わり]
 迷信から来る精神の不安を除くべき魔よけの護符はすなわち「物質不滅の方則」である、というのである。もちろん彼は彼の物質元子論から出発して、結局それから霊魂の可死を論ぜんとするのではあるが、彼のここに言うエキソルディアムは、おそらくもう少し一般化して「自然科学的世界観」をさすものと解釈しても、たぶん彼の真意を離れる恐れはあるまいと考えるのである。
 現在の物理学における物質不滅則、原子の実在はだれも信ずるごとく実験によって帰納的に確かめられたものである。二千年前のルクレチウスの用いた方法はこれとはちがう。彼はただ目を眠りふところ手をして考えただけであった。それにかかわらず彼の考えが後代の学者の長い間の非常の労力の結果によって、だいたいにおいて確かめられた。これははたして偶然であろうか。私はここに物理学なるものの認識論的の意義についてきわめて重要な問題に逢着《ほうちゃく》する。約言すれば物理学その他物理的科学の系統はユニークであるや否やということである。しかし
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