ニら》の子の勘定でもして楽しんでいるような人にはこの書はなんにもならない。また戦線の夜の野原の中を四つんばいになってしかも目かくしされたままで手探りで遺利を拾得しようとしている「落ち穂拾い」にもこれは足しにならない。要するに私がかりに、「科学学者」と名づける部類の人々には役に立たないが、「科学研究者」と名づけるべき階級の人々には、このルクレチウスは充分に何かの役に立つであろうと信じるのである。
一方において私は若い科学の学生にこの書の一読をすすめてもよいと思うものである。学生たちは到底消化しきれないほどの栄養を詰め込まれて知識的胃病にかかっている。人は決して澱粉《でんぷん》蛋白《たんぱく》脂肪《しぼう》だけで生きて行かれるものではない。ヴィタミンが必要である。ヴィタミンだけでは生きて行かれないが、しかしヴィタミンを欠いだ栄養は壊血病を起こし脚気症《かっけしょう》を誘発する。実際現代の多くの科学の学生はこれとよく似た境遇にありはしないかと心配される。そういう学生にとってルクレチウスが確かに一種のヴィタミンの作用を生じうるであろうと考えるのである。
以上長々しい前置きによって私は多く
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