盾狽奄盾氏@and repose of things.
[#ここで字下げ終わり]
という詩句を玩味《がんみ》してみると、いかに最新の学説に含まれた偉大な考えがその深い根底においてこの言葉の内容と接近しているかに驚かざるを得ない。もしルクレチウスの sense を「実験観測」と置換し、また彼の motion and repose を ΔE 等で置換すればこれはまさにボーアの所説となるのである。もちろん私はボーア、ハイゼンベルヒらがルクレチウスを読んで暗示を得たとは思わない。しかし彼らの考えが識域の下においてまさに発酵しようとしている際に彼らがもし偶然この詩句に逢着《ほうちゃく》したとしたら、そして彼らの心の窓が啓示の光に対して開放されていたとしたら、おそらく彼はデスクをたたいて立ち上がり、「ユーレーカ」を叫んだのではあるまいか。これはもちろん私の想像でありドラマであるが、そういう場面が、いつかどこかで起こり得ないとは保証し難いことである。
 暗示の閃光《せんこう》が役に立つためにはもちろん見るべきものに直面して両眼をあけていなければならないのである。それで科学の既得の領土に隠居して、虎《
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