る習俗と同じ事である。
三五九頁にはこんな事がある。
債務者が負債を払わないで色々な口実を設けて始末のわるい場合がある。そういう場合に債権者は債務者の不意を襲うてその身辺に円を画《えが》く。すると後者はその債務を果たすまでその円以外に踏み出す事が出来ない。もし出れば死刑に処せられる。
こういう法律は今日では賛成者が少なそうに思われる。債務者の方が多数だから。
七
三七二頁には次のような話がある。
ある宗派の修道者が、人から、何故死体を火葬にするかという理由を聞かれた時にこう答えた。死骸をそのままにしておけば蛆《うじ》がわく。然るに蛆が食うだけ食ってしまっておしまいにその食物が尽きるとそれらの蛆がみんな死んでしまわなければならない。これは甚だ殺生《せっしょう》であるからいけない。
同じような立場から云うと、基礎の怪しい会社などを始めから火葬にしないでおいたためにおしまいに多数の株主に破産をさせるような事になる。これも殺生な事であると云わなければならない事になる。
こんな話の種を拾い出せばまだまだ面白いのがいくらでも出て来る。
あまりあてにならないよう
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