そう書いてはいけないという絶対的な理由はないようである。いわゆるイニシアルでも、T. T. とだけでは、例えば自分と同番地の町内につい近頃まで四人もいた。しかし、T. T. H. Y. という風に四字の組合せならば暗合のチャンスはずっと少なくなる。尤も大井愛といったような姓名だと Oo I Ai で少し短かすぎ、また 〔Tyo^ So Ga Be Ta Ro^ Za E Mon〕 では少しごたごたし過ぎるかもしれない。但し、漢字でかくのと大した変りはない。それにしても日本の学者の論文が外国に紹介されるときに別人の仕事が同一人の仕事のように取扱われるような、よくある混同を避けるにはこういう新案もいいかもしれないのである。もう一歩進んで姓名の代りに囚人のように三一六五八九二四といったような番号をつけるのも最合理的な一方法であるかもしれないが、そうなるのはやはり悲しい。
[#地から1字上げ](昭和八年十月『文芸評論』)
底本:「寺田寅彦全集 第七巻」岩波書店
1997(平成9)年6月5日発行
入力:Nana ohbe
校正:noriko saito
2004年11月24日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全5ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング