が、いつでも失望するにきまっていた。
 根津《ねづ》辺の汚い下宿屋で極めて不規則な生活を送っている。一日何もしないで煙草ばかり吹かして寝たり起きたり四畳半に転がっている事もあれば、朝から出かけて夜の二時頃まで帰らぬ事がある。そうかと思うと二、三日風呂にも行かず夜更《よふけ》まで机へすがったきりでコツコツ何か書いたり読んだりする。そんな時はいかにも苦しそうな溜息ばかりして何遍となく便所へはいって大きな欠伸《あくび》をする癖がある。朝は大概寝坊をして、これがために昼飯を抜きにする事があるが、その代りに夜の十時頃から近所の牛肉屋へ上がって腹一杯に食う事も珍しくない。一体に食う方にかけては贅沢で、金のある時には洋食だ鰻《うなぎ》だとむやみに多量に取寄せて独りで食ってしまうが、身なりはいつでも見窶《みすぼ》らしい風をして、床屋へ行くのは極めて稀である。それでも机の抽斗《ひきだし》には小さな鏡が入れてあって、時によると一時間もランプの下で鏡を睨《にら》めている事がある。風采はあまり上がらぬ方である。酒を飲まぬ事と一度も外で泊った事のないのを下宿の主婦が感心していた。友達というものはほとんどない。た
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