いうあたま[#「あたま」に傍点]のない女中などには到底望み難い仕事である。私はこのような間に合わせの器械を造る人にも、それを平気で使っている人にも不平を言いたくなるのである。
金網で造った長方形の箱形のもしばしば用いたが、あれも一度捕れると臭みでも残るのか、あとがかかりにくい。まれにかかってもたいていは思慮のない小ねずみで、老獪《ろうかい》な親ねずみになるとなかなかどの仕掛けにもだまされない。いくらねずみでも時代と共に知恵が進んで来るのを、いつまでも同じ旧式の捕鼠器《ねずみとり》でとろうとするのがいけないのでないかという気もする。
それよりも困るのは、家内じゅうで自分のほかにはねずみの駆除に熱心な人の一人もいない事である。せっかく仕掛けてある捕鼠器《ねずみとり》の口が、いかにはいりたいねずみにでもはいれないような位置に押しやられていたり、ふたの落ちたのをそのままに幾日も台所のすみにほうり出してあるのを発見したりするとはなはだ心細いたよりないような気がするのであった。そこに行くとどうしてもやはり本能的にねずみを捕《と》るようにできている猫《ねこ》にしくものはないと思わないわけにはゆか
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