吟味をさせるのもおっくうであるのみならずその効果が疑わしい。結局やはり最も平凡な方法で駆除を計るほかはなかった。
殺鼠剤《さっそざい》がいちばん有効だという事は聞いていたが、子供の多いわが家では万一の過失を恐れて従来用いた事はなかった。しかし子供らもだいぶ大きくなったから、もう大丈夫だろうと思って試みに使ってみた。するとまもなく玄関の天井から蛆《うじ》が降り出した。町内の掃除人夫《そうじにんぷ》を頼んで天井裏へ上がって始末をしてもらうまでにはかなり不愉快な思いをしなければならなかった。それ以来もう猫《ねこ》いらずの使用はやめてしまった。猫いらずを飲んだ人は口から白い煙を吐くそうであるからねずみでも吐くかもしれない。屋根裏の闇《やみ》の中で口から燐光《りんこう》を発する煙を吐いているのを想像するだけでもあまり気持ちがよくない。
木の板の上に鉄のばねを取り付けた捕鼠器《ねずみとり》もいくつか買って来て仕掛けた。はじめのうちはよく小さな子ねずみが捕《と》れた。こしらえ方がきわめてぞんざいであるから少し使うとすぐにぐあいが悪くなる。それを念入りに調節して器械としての鋭敏さを維持する事はそう
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