も一様に「生存の権利」というものがあるそうである。そんならねずみだって同じ権利を認めてやらないのはわるいような気がする。しかしそういう権利が人間にさえあるのかないのか自分にはわからない。かりにあるとしたところで両方の権利が共立しない時に強いほうの動物が弱いほうをひどい目にあわせるのは天然自然の事実であっていかなる学者の抗議もなんの役にも立たないようである。
科学の応用が尊重される今日に、天井や押し入れの内にねずみのはいらないくらいの方法はいくらでもできそうなものだと思う。ある学者は天井裏に年じゅう電燈をともしているそうであるがこの方法はいかに有効でもわれわれには少しぜいたくすぎるような気がする。もう小し簡便な方法がありそうなものである。だれか忠実な住宅建築の研究者があって、二三日天井裏にすわり込むつもりでねずみの交通を観察したら適当な方法はすぐに考えつくだろうと思われる。そのような方法は学者のほうではとうの昔にわかっているのをわれわれが知らないのか、知ってもそれを信じて実行しないのかもしれない。住宅建築の教程にねずみに関する一章のないはずはあるまいと思う。
大工を呼んでねずみの穴の
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